バーへようこそ#7-2 東京・新宿 BAR Cocktail Book Shinjuku 新宿のバーより感謝を込めて…

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バーへようこそ#7-2 東京・新宿 BAR Cocktail Book Shinjuku 新宿のバーより感謝を込めて…

こんにちは!BAR Compass編集部の河合です。

この記事は、東京・新宿の「BAR Cocktail Book Shinjuku」さんのオーナーバーテンダー、岡村 朗(おかむら あきら)さん(以下、岡村さん)ご協力のもと取材を実施し執筆した記事の後編です。

ぜひ以下の前編をお読みいただいた後に後編をお読みいただけるとうれしいです!

後編では京王プラザホテルのバーから独立した岡村さんがBAR Cocktail Book Shinjukuで築き上げてきたものについてやなかなか聞くことのできない売上に対しての向き合い方、そして興味はあるけどまだバーに行けていない人たちに向けての岡村さんの考えなどをまとめました。

ぜひ最後までお楽しみください!

思い出深い一杯

前編ではBAR Cocktail Book Shinjukuが力を入れるカクテルとして、約50種のアレンジジントニックを紹介した。

その他、せっかくだからショートカクテルも、ということで岡村さんが紹介してくださったのは京王プラザホテル時代に岡村さんが考案したオリジナルカクテル「ライオンハート」

ベースはビーフィータージンとなっており、ここにレモンジュースとピーチリキュール、シャルトリューズ ジョーヌを合わせていく。
バーメジャーは使わずともどれくらいの量を入れているか感覚で把握できている岡村さん。本当にかっこいい…

そしてここからのシェイク。岡村さんのシェイクは無駄な力がすべて抜けており非常になめらかだ。

グラスに注ぎ仕上げに美しい花弁の装飾を行う。
岡村さんの動作の美しさが特にショートカクテルを作る過程でははっきり見えてくる。

ピーチリキュールの甘みに加え、シャルトリューズ ジョーヌの蜂蜜のような奥深い味わいがうまくジンとマッチしており飲み手を魅了する。
しっかりとお酒が入っているカクテルであるため、飲み口はよいがグイグイ行くと大変なことになってしまう笑

「このカクテルは僕がホテルマンの時に、思うように仕事で成果が出ず落ち込んでいた時に、自分を勇気づけるために創作したカクテルです。『ライオンハート』というカクテル名なので、お客様が自分を鼓舞する時に飲まれることもあります。」

明日への原動力をチャージするにはぴったりのカクテルだ。


岡村さんがBAR Cocktail Book Shinjukuで築き上げてきたもの

(BAR Cocktail Book Shinjukuは2022年11月で11周年を迎えた。)

「暇なんてことはあり得ない。」

岡村さんがBAR Cocktail Book Shinjukuで築き上げてきたものは、「お客様ひとりひとりとの向き合い方」だと語ってくれた。

「忙しかろうが静かであろうが全力でお客様に向き合うことが大切なんです。
 昔、僕は営業中に静かだった時に今日は暇だったという言葉を使ってしまっていました。でもこれは言葉の使い方が変だと思っていて、暇と言っちゃう人は全力を出していないことを自分から言ってしまっているように思えるんです。例えば、お客様がたったひとりであっても静かではあるかもしれませんが、暇になる瞬間なんてないんですよ。この人は何考えているんだろう、何が好きなんだろう、ともっと喜んでもらうためにどうすべきかを全力で考えることが大切だと思います。」

よく見る、そして感じとる。こうすることでなにか見えてくるものがあるという。
うれしい時、悲しい時に人々が発するサインのようなものを掴めるようにしたい、と岡村さんは言う。

また、お客様との向き合い方については岡村さんはこんな興味深い話をしてくれた。
「僕の妻(BAR Cocktail Book八王子オーナーバーテンダー)は『たとえ屋台のように小さくても自分のバーを持ちたい』と言っていたんです。『内装がゴージャスではない、それでもそのバーテンダーに会いたい、そこで飲みたいと思ってもらえる。そういうバーテンダーになりたい。』と妻が話をしていました。とても大事な考えだと僕も思いました。」

海外のお客様が即興で描いてくださったトレードマークのフクロウの画

お酒がおいしいだけなら他のお店でもいいのかもしれない。しかし、岡村さんの接客はBAR Cocktail Book Shinjukuにしかない。バーテンダーに大切なものは「人としての魅力」ではないかと岡村さんは語る。

お客様ひとりひとりに全力で向き合うことで信頼関係を少しずつ築いていく。口で言うほど簡単なことではない。
常連、新規は関係なく丁寧に接客を行い、お客様のおいしいと言っていたカクテルを記憶し、営業終了後にさらに研究を重ね、次回の来店時に新たなカクテルを提案する。
また、自分のカクテルの味を定期的にチェックし、気になるカクテルについては追求を怠らない。カクテルではなく、ビールやウイスキーのオーダーであったとしても、お客様のこれまで感じていたおいしいとはまた違ったおいしい、楽しいを提供することを目標とする。

岡村さんは感謝の気持ちを忘れず、さらに妥協をせずにお客様と向き合うことを常に意識している。

バーの売上とお客様へのサービス

「あとは数字の魔力に負けないことも大切なんですよね。」
岡村さんの言う「数字の魔力」とは何なんだろうか?

オープンして3、4年目まで売上が右肩上がりだったBAR Cocktail Book Shinjuku。しかし、5年目を迎えた頃、売上が上がらなくなり横ばいから若干下降に転じた。これまでとまったくスタイルは変えていないにもかかわらず、なぜだろうと1年間もがきながら営業を続けたという。

「これは今でも反省をしています。全体の売上が上がるか下がるかばかりを気にしていましたが、一番考えなくちゃいけないのは来てくださっているお客様のことでした。ある意味慢心があったのかもしれません。これまでと変わらず来店してくださるお客様がいらっしゃるからお店は継続できているのに売上が下がったことばかりを気にしていました。めちゃくちゃかっこ悪いことをしてしまっていたなと思っています。」

結果的に岡村さんは1日1日の売上累計を出すことをやめた。例えば、10日間の売上累計が分かってしまうと、あと20日間でこれだけの売上を出さないといけない、と意識をしてしまう。「数字は怖い」ので、これが頭にこびりついてしまうのだ。
そこで売上の累計を出すのは月末だけとした。そして数字を気にせず、感謝の気持ちを大切にひとりひとりのお客様と全力で向き合い続けた。すると、不思議なことにまた売上が上昇し始めたという。

売上はお客様との信頼関係の延長線にあるもの。値段に関係なくお客様が喜んでくれるものを提供し続けることが信頼関係を築くために必要とと岡村さんは考えている。
この信頼を積み重ねることで、応援してくれる人が増える。そしてこの応援してくれる人を大切にしていくことで自然と売上は伸びるものだと熱く語ってくれた。

「まずはGiveが大切だと思います。」

岡村さんはお客様に楽しんでいただくことを最優先にするため、気になるお酒があれば少し提供したり、お祝い事などうれしいことがある場合はサプライズカクテルをプレゼントするなどを意識している。

これも売上をいちいち気にしていたらできないんですよ。でも、まずお客様に楽しんでいただく努力をしなくちゃいけないと思います。そんなのきれいごとだろ?と言う人もいるかもしれませんが、お客様に楽しんでいただけたら純粋に僕もうれしいですし、こういったことの積み重ねが回りまわって売上として返ってくるんだろうなと思います。
 海外の方もうちは多いんですが何か特別な宣伝をしているわけではないですし、僕も英語が得意なわけではありません。でも楽しんでもらいたいという気持ちは伝わっているように思います。もちろん気持ちだけではだめで、おいしいお酒を作る技術は必要であるものの、技術か接客どちらが大切かといえば僕は接客だと思いますね。」

お客様にとって大切な場所であり続けたい。これまでの自らのスタンスを変わらずに提供し続けたいと岡村さんは語る。

バーテンダーは引きの営業

岡村さんはお客様が来ない時はひたすら待つという。

「営業の電話をしてしまったりする人もいるんですが、究極の引き営業であるバーテンダーは絶対にそういうことをやっちゃいけないと思っています。僕はお客様が来なくても丸氷7つ作って、ドラゴンボールみたいに願いが叶ってお客様が来ないかなとかやってるだけです笑(前編に登場するドラゴンボールのエピソードをぜひご覧ください笑)」

ホテルバーの場合だと知らないお客様の接客をすることがほとんどだったので形式ばった接客になりがちだったという。今では7、8割が常連のお客様で残りが新規のお客様であることがほとんど。

「来店してくださることが当たり前ではないんです。」
じっくり待ち、来てくださったお客様に全力で対応をする。この接客の部分が「カクテルブックの強み」だと岡村さんはいう。

興味はあるけどまだバーに行けていない人たちへ

店内にはいたるところにフクロウが!

「うちはかなり入門編のバーだと思っています。」

たしかに数あるバーの中には、なんでこんなことも知らないの?というようなスタンスで接客をするバーテンダーがいるのも事実だ。しかし、岡村さんは違う。

初めての方には特に丁寧さを重視しています。いろんなお酒があることや注文の仕方などもお伝えしますし、分からないことがあったらなんでも聞いてくださいとお伝えします。とにかく安心感を持ってもらえるように説明をしていきます。」

この「安心感」がポイントだ。メニューがあるとついこの中から選ばなくてはならないのではないか、という思いに駆られることもあるが、いろんなお酒があること、カクテルとして作れることを説明していくことで、バーが「自由」で楽しい空間であることを知ってもらいたい、と岡村さんは言う。

「今日(取材当日)も20歳ちょっとの女性2人がいらっしゃいましたが、『次さっぱりしたのがいいです』とか自由にオーダーをしてもらいました。それに対して僕はアルコールが強めがいいか、弱めがいいかなどを聞いて実際にカクテルを作っていきました。
 やっぱりおいしいお酒が作れるだけじゃだめなんですよ。お客様が一杯飲んでおいしいと言ってくれたら、次はまたそれに対応するようなボールを投げ返さないといけない。そういったお客様とのコミュニケーションは意識してやっています。」

バーに行ったらこうしなきゃいけない、というのも岡村さんはあまりないのではないかと語る。「騒ぐのはNG」だが、岡村さんとの会話を楽しむもよし、深く考え事をするのもよし、どんなお酒があるのかずっと眺めるのもよし。とにかく自由で楽しい場であることを多くの人に知ってもらうために岡村さんはバー初心者の方に向けて丁寧な接客を心がけている。

そして慣れてきた方には「特別感」を感じていただけたらうれしい、と岡村さんは語る。この「安心感」→「特別感」へのステップがとても大切で、岡村さん自身もテーマにしている部分だ。

「バーでなくてもいいんですが、行きつけのお店があるということは、とても人生が豊かになると思います。カクテルブックがお客様の行きつけになればいいなと思っているので、僕も日々努力しています。」

BAR Cocktail Book Shinjukuでのバーデビュー。ぜひ多くの人に果たしていただきたい!

BAR Cocktail Book Shinjukuのこれから

これまでもこれからも岡村さんのテーマは「2世代、3世代で通えるバー」だ。

「今来ている常連さんが結婚をして息子さんが生まれて、成人を迎えた日に息子さんを連れてきてくれたことがありました。最高にうれしい瞬間です!」

そして、その20歳になった息子さんもたまにBAR Cocktail Book Shinjukuにやってくるのだという。

2世代、3世代が通えるバーを目指すとなると、「僕が死んだ後もCocktail Bookのようなお店が残せたらいい」と岡村さんは考えている。

今後はこのCocktail Bookの考え方やスタイルに共感してくれる弟子を雇うことができれば、3世代を超えて4世代目にもCocktail Bookの魅力を伝えられるかもしれない。

「どうしても一人営業だと限界があるんです。人を入れて新たな体制でよりよい特別な空間を作っていければなと思っています。」

また、カクテルコンペへの挑戦も岡村さんは続ける。その一方、毎月のオリジナルカクテル考案など通常業務終了後にコンペの練習というのはきついものがあるとも語る。

しかし、
「なぜここまで僕がコンペを頑張ることができるかといえば、ずっと応援してくださるお客様がいらっしゃるからです。
 サントリーカクテルアワードとHBA(日本ホテルバーメンズ協会)創作カクテルコンペティションの2つはまだ自分の納得いく結果が出せていません。やはり優勝して自分の中でもひとつの区切りをつけたいですね。」

これからも体調管理をしっかり行いながらできるだけ長くカウンターに立ち続け、多くのお客様との思い出を積み重ねていきたいと語る岡村さん。

「毎日楽しいし毎日幸せ。」
笑顔でそう締めくくってくれた岡村さんから今後も目が離せない。

編集後記

実は今回初の深夜取材でした。いつもだったら0時過ぎの終電に乗るために慌ててJR新宿駅に向かっているのに、0時前に駅に着くという激しい違和感…笑
BAR Cocktail Book Shinjukuの営業終了が25時なので取材はそこから始まりました。

営業後にもかかわらず岡村さんは本当に丁寧に取材に応じてくださり、今回の前編、後編に分かれた長編記事が完成させることができました。(実は取材後半では岡村さんのカクテル研究の様子なども拝見させていただきました!)

取材を通して最も感じたのは、岡村さんの接客への意識の高さでした。
正直私は岡村さんからお話を聞くまでバーテンダーにとっては接客以上にカクテルメイク技術が大切だろうと思っていました。なんといっても職人の世界なので、なんだかんだうまくカクテルを作ることが重要視されていて、個人的にもカクテルがおいしいお店を優先して訪れているつもりでした。

しかし、岡村さんのお客様への向き合い方をはじめとした接客に対する意識を伺う中で、たしかに私自身が居心地がいいと思うバーってその場を切り盛りするバーテンダーの方の人柄が優れているバーばかりだなと振り返りました。

ただカクテルメイクの技術があるだけではだめ。やはり人と人とのつながりを大切にできるバーテンダーでなければ、長く営業を続けることはできない。なんなら接客のほうが大切なのではないか、という岡村さんの意見に強く心動かされました。

最近インスタグラムでもよく使っている言葉である「総合力」という考えはこの取材から生まれました。バーはカクテルがおいしいだけではいけない、接客や雰囲気づくりなどすべてを総合しての力が必要だと今の私は考えています。
この考えに至るきっかけを作ってくださったのは岡村さんです。

長々と書いてしまいましたが、BAR Cocktail Book Shinjukuは私が大好きなバーのひとつです。ずっと通い続けたいと思えるかけがえのないバーです。このバーの魅力を多くの人に伝えたいという思いが強かったので、今回この取材を実現し、そして記事を執筆することができ私はとても幸せでした。

末筆ながら営業後大変お疲れのところ取材に応じてくださった岡村さんに改めて御礼申し上げます。

(記事 河合 佳祐)

〇BAR Cocktail Book Shinjuku
 詳細情報
・住所   
 東京都新宿区西新宿7丁目5−5
        プラザ西新宿 2F
・営業時間
 火曜日~金曜日

 18時~1時
 土曜日
 17時~1時
・定休日  
 日曜日、月曜日、その他臨時休業あり

・アクセス 
 都営地下鉄大江戸線「新宿西口駅」
 D5出口より徒歩2分
 JR新宿駅西口より徒歩12分
・公式インスタグラムは、こちら

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