バーへようこそ#4 東京・稲荷町 BAR ANAM 地元に愛される新進気鋭の女性バーテンダー - bar_compass

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バーへようこそ#4 東京・稲荷町 BAR ANAM 地元に愛される新進気鋭の女性バーテンダー

こんにちは!Bar compass編集部の河合です。
第3弾に続き今回も下町情緒が色濃く残る東京・稲荷町の「BAR ANAM」(バーアナム)さんへ。

稲荷町ってどこ?って思う方もいらっしゃるかもしれませんが、上野動物園や数多くの美術館・博物館で有名な上野と浅草寺のある浅草との間にある町が稲荷町です。東京最古のお稲荷さん、下谷神社を中心に仏壇店なども多いまさに東京の下町を言うべき味のある町です。

そんな稲荷町で地元の皆さんから愛されるひとつのバーがあります。その名もBAR ANAM。(ANAMとは、スコットランド先住民の使用言語であるゲール語で「魂」(英語ではスピリッツ)を意味する言葉です。)
今回はBAR ANAMの店長を務める飯沼 紗代(いいぬま さよ)さん(以下、飯沼さん)にお話をお伺いしました。

まずはBAR ANAMおすすめのカクテル・お酒をご紹介した後に、飯沼さんさんのバックグラウンドを深掘りしていく形で記事を書かせていただきます。
最後までお楽しみいただけますと幸いです。

第3弾も同じく下町の浅草のバーを取り上げておりますので併せてご覧ください。

BAR ANAMおすすめのカクテル・お酒

自家製生チョコの生チョコドリンク

まずご紹介したいのは、なんとBAR ANAM自家製の生チョコを贅沢に使っているこちらのカクテル。チョコレートの上品の甘さを楽しむことができるため、お酒が少し苦手な方も十分楽しむことのできるすばらしいカクテルだ。

カクテル以外にもBAR ANAMでは貴重なウイスキーを多く取り揃えている。お店イチオシのボトルを何本かご紹介いただいた。

バランタインのオールドボトル
グレンフィディックのオールドボトル
THE ESSENCE of SUNTORYの限定ボトル
ホワイト&マッカイの30年オールドボトル

どれもウイスキー好きなら喉から手が出るほどほしい銘品ばかりだ。ああ、あのウイスキー飲みたかったのに次に行った時にはもうなかった…なんてことはあるある。飯沼さんにぜひともリクエストして貴重なウイスキーを楽しんでいただきたい。

ちなみにこちらがなにかパッとわかる方はいらっしゃるだろうか?

なんとこちらは発売開始当時のサントリー角瓶だという。中身は古すぎてもう飲むことはできないが、記念碑的な非常に貴重なボトルだ。気になる方は、BAR ANAMにてぜひ実物を確認してみてほしい。


バーテンダーを志したきっかけ

「人とのご縁がなければバーテンダーにはなっていなかったですね。」

ここからは飯沼さんのバーテンダーとしてのバックグラウンドについてお伝えしたい。

もともとバーでお酒を飲むのが好きだった飯沼さん。バーテンダーという職業が気になり始めたきっかけは、初めて失恋をした際に地元・埼玉のバーを訪れていた時だという。
「その時に元気ができる一杯をくださいってマスターにお願いした時に、ボッチ・ボール(アマレット+オレンジジュース+ソーダ)というカクテルを作ってもらいました。私にとってはこれが失恋なんてどうでもいいと思えるくらいの一杯でした笑
 その一杯を飲んだ時に、お酒一杯で人の気持ちを変えることができるのであれば、バーテンダーってすごく素敵な仕事でいいなと思っていました。

その後、また埼玉の別のバーに飲みに行ったタイミングで偶然の出来事が起こる。
飯沼さんは、よくお会いする常連のお客様にその日が誕生日だったこともあり、一杯ドリンクを奢ってもらうこととなった。いろいろと話をしていく中で、その常連のお客様が近くのバーのマスターであることがわかり、アルバイトをちょうど探しているタイミングであることも知った。
「ちょうど自分もなにもアルバイトをしていなかったですし、失恋した時の経験もあったので、これもなにかのご縁かなと思い、バーでアルバイトを始めてみることにしました。これがちょうど20歳の時です。」

こうしてバーでアルバイトを始めてバーテンダーという仕事の楽しさにも気づくことができたが、ある日、マスターが飯沼さんに声をかける。
「もともと自分は料理人を目指してきた。だからカクテルなどはすべて独学だ。本当にバーテンダーで食べていきたいのであれば、他の店に行ったほうがいい。」
この言葉がきっかけで飯沼さんは地元・埼玉のバーを卒業することになる。
「もちろん実家も近いし居心地もよかったですが、そこで外に出なければなんちゃってバーテンダーで終わっていたかもしれません。」

面接なしで銀座のバーへ

地元・埼玉のバーを卒業した飯沼さんは次に銀座のバーで働き始めることとなった。しかし、これもまた大きな偶然が重なった結果だった。
「銀座で飲んでた帰りに有楽町駅に行きたかったんですよね。ちょっと道を尋ねようと思ったんですが、朝方で道を歩いている人もいなくてどうしようって思っていた時に、歩いてきた女の人がいてその人に道を聞いたんです。そうしたら『自分もタクシーで有楽町のほうに行くから一緒に乗っていっていいよ』って言われたんですよね。
 車内で話をしていると、ちょうどその女の人が自分のバーを開いたタイミングでスタッフを募集してるって言うんです。なんの仕事してるの?って聞かれたので、ちょうど前のバーを辞めて次の仕事場を探していることを伝えると、うちにおいでよって話になってタクシーの中でそのバーに勤めることが決まったんです。」

こうして勤めることとなった銀座のバーで学んだのは特に「サービス」だった。銀座には多種多様なお客様がやってくる。飯沼さんはお客様ひとりひとりに的確なサービスを行っていくことを心がけていった。この経験は自分にとって大きなものだったという。

そして次は「個人店ではなくたくさん人がいる正反対のバーを見てみたい」と思い、都内に多くの店舗を持つチェーン店で働くことになった。しかし、ここで大きな組織ならではの問題にぶつかることになる。
「副店長だったので会議に出たりもしないといけないですし、気がついた事務作業ばかりしている自分がいました。」

この頃、飯沼さんの自宅の近所にあった「BAR ANAM」にお客として訪れていたこともあり、マスターにいろいろとお話を聞いていただいていた。ANAMのマスターからもいつでもうちにおいで、と言われていたこともあり、チェーン店を辞めた後はBAR ANAMで働くこととなった。

「これもマスターが声をかけてくれたので働くことができたというご縁がありましたし、そもそもチェーン店に勤めていた関係でこのあたり(稲荷町あたり)に住むことにもなったので、チェーン店に勤めることがなければANAMで私が勤めることもなかったと思います。」

何事もご縁が大切だとよく言われるが、飯沼さんの人生はそれをまさに体現している。人とのご縁と飯沼さんの人生は切っても切れないものになっている。

BAR ANAMでの経験

BAR ANAMの2階席。開放感溢れる空間でお酒を楽しむことできる。

BAR ANAMでは、特に本格的なカクテル作りを学んだ飯沼さん。大会などにも積極的に出場し始め、ハバナクラブ(ラム)のカクテルコンテストでは入賞、メーカーズマーク(ウイスキー)のカクテルコンテストでも優秀賞を獲得するまでになる。

「バーテンダーを名乗る人は世間にたくさんいますが、レベルを上げていかないと他のバーから声をかけてもらえるような存在にはなれないと思っていました。やはりワンランク上の交渉をして仕事を勝ち取っていくようにもなりたかったので。」

大会でも結果を出すことができ、飯沼さんにとってこれがひとつの大きな区切りになった。

メーカーズマークの大会で優秀賞を獲得した記念にアメリカに行く機会をサントリーさんがくださった。これはその時の記念冊子だ。

引き寄せ、引き合わせが得意

何か悩んでいる人の力になりたい。今、そのような思いでカウンターに立っているという飯沼さん。

「なんとなくですが、引き寄せ、引き合わせが得意なのかなと自分でも思うことがあります。私もいろんな方とのご縁で、バーテンダーになるきっかけをもらい、ここまでやってくることができたと思っています。次は自分もひとりでも多くの人にバーがいいな、バーテンダーっていいなって思ってもらえるような接客をしようと心掛けています。
 カクテルのレシピを聞かれたらすべて教えようと思っていますし、メニューを見て悩んでいる人がいたらこちらから一声かけるなども意識的に行っているので、それが結果的にお店のよいところにもなっていたりするのかなと思いますね。」

BAR ANAMとして意識しているのは、地元の皆さんに貢献をすることでもある。飯沼さんの細かな心遣いが地元の皆さんの癒しにつながる部分も多いだろう。

「コロナのときも地元の人のおかげでなんとかやって来れたところがあると思っています。ここに来るまでは、お客様と自分(店員)の間で線引きをしてしまっていたところがありました。でもここに来てお客様と店員である前に人と人の関わりであることを学びました。
 ですので、もちろん距離感は大切にしつつ、お客様に近づこうと思っています。お客様も人と人とのつながりを楽しみに来てくださる方も多いですし、私もそれを大切にしたいと常に思っています。もちろんそれは地元の方に限らず、初めて来た方や遠方の方もすべて同じです。」

お客様に座っていただく席もしっかり飯沼さんがマネジメントするという。他のバーでは、直接お客様が別のお客様に声をかけることをよしとしない部分もある。しかし、その部分をしっかりマネジメントすることで、結果的にお客様同士で会話が盛り上がることが多いという。これもお客様とバーの信頼関係あってこそだ。

「バーの雰囲気を壊すような人はお店に入れません笑」

笑いながらも飯沼さんは語ってくれた。

季節感やオリジナリティも大切にしたい

もちろんお酒についてもこだわりがある。飯沼さんは、「お客様がBAR ANAMに来たときに、ひとつでも『発見』をして帰ってほしい」と語る。

「夏が来たらパイナップル、秋だとブドウなど季節感は大切にしています。他にも変わり種を出すことも意識しています。例えばベーコン味のウォッカを使ったトマトスープ風カクテルやアップルビネガーと果物を使ったアメリカの禁酒法時代からあるシュラブドリンクを使ったカクテルも提供しています。」

フレッシュパインと生姜のカクテル

夏に向けてのシーズンにおすすめしたいのがこちらのカクテル。パイナップルのジューシーさが口の中に思いっきり押し寄せる最高のカクテルだ。今回はパイナップルと生姜を合わせていただいたが、パイナップルとマンゴー、パイナップルと桃の組合せも絶品だ、と飯沼さんは語ってくれた。

「一来店、一発見がいいですね」と飯沼さんは語ってくれた。ウイスキーもストレートやロックだけでなく、トゥワイスアップなど様々な楽しみ方がある。そういった楽しみ方を伝えていくことで、お客様のお酒に対しての世界観を広げることにつながるのではないか、と飯沼さんは考えている。

言われたものをただ出すだけなら誰にでもできる。そこから先をしっかりと考えた接客を心がけているのが飯沼さんだ。

ちなみに飯沼さんが運営するBAR ANAMのインスタグラムアカウントでは、毎日おすすめのカクテルなどの紹介を行っているので必見!

若い世代やバー初心者のために

飯沼さんは、若い世代やバー初心者がバーに来るときにネックとなっているものとして、「価格」と「オーダーの仕方がわからない」点を挙げてくれた。

頼み方のハードルを下げるというところはこだわってやっています。メニューを見ても正直カクテル名しか載っていないので分からないと思うんですよね。なので、気軽に『かわいいカクテルがほしい』とかバーテンダーにリクエストしてくださっていいと思っています。」

中にはスマホでどんなカクテルかを調べる人もいるというが、それはバーテンダーにこんなことを聞いてもいいのか…という不安感から来ているものだ、とも語ってくれた。
緊張して来店してくれていることはバーテンダー側も分かっているので、何か分からないこと、気になることがあればバーテンダーに気軽に声をかけてみるという意識で臨むとバーを心から楽しむきっかけになるのだろう。

またちょっとした気づきも飯沼さんは大切にしているという。荷物を持っている人がいたら言われる前に荷物入れを出す、気温が高い時期であればショートパンツの女性のお客様もいらっしゃるのでひざ掛けを用意する。そういったことの積み重ねがお客様に安心をしてもらえることにつながる、と語ってくれた。

「おいしいカクテルを作るのは大前提として、まずは人として自分のことを好きになってもらいたいんですよね。結局、バーテンダーからも放っておかれて他のお客様とも気が合わなければ、最初は1杯1000円で満足していただけていてもそれがいつか高いと感じるようになってしまうと思います。

バー単体で見るがゆえに怖さや不安感があるかもしれないが、あのバーテンダーがいるお店だ、と思ってほしい。飯沼さんの接客のこだわりが垣間見えた。

女性バーテンダーとして意識していること

「ガールズバーになってしまってはだめなんですよね。」

バーテンダーとして締めなければいけない。そういった部分を飯沼さんはしっかりと意識してカウンターに立っている。

人として見られることと女の子として見られることはまったく意味が違うと思います。ただかわいい子がカウンターに立っているおいしいお酒が飲めるお店と見られてしまうと、『バーテンダー』という前提がなくなってしまっていると思います。バーテンダーとして見られたうえで、人として好きという流れをしっかり作っていきたいですね。」

男性だからこうする、女性だからこうする、というのはなく、お店のことを気遣ってくれるお客様を大切にしたい。逆にお店や周りのお客様に迷惑をかける人のマネジメントもバーテンダーとして行わなければならないことだ、と飯沼さんは語る。

「ちなみに男性バーテンダーであれば、無表情でカウンターに立っていても何も言われませんが、女性で無表情だとムッとしていると思われがちなんです笑 なので、口角を上げることを意識したりしないといけないんですが、こういうのは女性バーテンダーならではの苦労かもしれません。でも、こういった面を含めてもバーテンダーという仕事は好きなんですけどね。」

自分自身がこうした苦労をしてきたからこそ、女性の視点で女性のお客様を大切にしていきたいという思いも強い。女性が気軽に来れる安心なお酒を飲む場を提供していくこと。これが飯沼さんのひとつのこだわりでもある。

BAR ANAMを選ぶ理由を増やしたい

「正直、バーテンダーは世の中にたくさんいるので、私やANAMでなくてもいい部分ってあると思うんです。そんななかでどうやってお客様に選んでもらうかですよね。」

飯沼さんは、バーテンダーの個性やバーの強み、コンセプトをいかにお客様に伝えていけるかだと考えている。ゆえに高いレベルのサービス、接客、季節のカクテルが飲めるなどのおもしろさを提供していくことで、唯一無二のバーになっていくことを飯沼さんは心がけているという。

「お客様にお店が混んでいてうれしいと思ってもらえるようにしていかないといけないですよね。混んでいたら混んでいたで、帰り際のあいさつなどをひと工夫したりもします。お客様にBAR ANAMを選んでもらえる理由をたくさん持ってもらえるのが一番いいですね。

地元の皆さんをはじめ多くの方にバーの魅力を伝えていきたい。飯沼さんの強い覚悟が感じられた。

編集後記

今回は飯沼さんから多くのお話をお聞かせいただきました。

飯沼さんも私と同世代。同世代の方がバーテンダーとして第一線で活躍する姿には心動かされるものがありました。私もBAR ANAMさんには、お客としてお伺いをさせていただく機会が多いですが、地元の皆様もとてもすばらしい方ばかりで、本当に地域の方々の憩いの場になっているのだなと思っています。

そして女性バーテンダーの方への取材は私自身、初の試みで女性ならではの視点でのサービスが数多くあることたくさん勉強をさせていただきました。女性、男性と差別化したい意図があるわけではもちろんありませんが、女性にもしっかりとバーを楽しんでもらえる環境の提供に力を入れている飯沼さんのサービスレベルの高さを感じた取材にもなりました。

末筆ながら本当に快く取材を引き受けてくださった飯沼さん、写真撮影の際に大変ご尽力いただいたBAR ANAMのマスターには心より深く御礼申し上げます。

(記事 河合 佳祐)

〇BAR ANAMの詳細
・住所   

 東京都台東区松が谷1丁目3−2
・営業時間 18:00〜27:00 
・定休日  

 火曜定休(その他臨時休業有り)
・アクセス 

 東京メトロ 銀座線稲荷町駅より徒歩4分 、JR上野駅より徒歩15分 

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