バーへようこそ#9 東京・渋谷 BAR Legacy 次世代へ受け継ぐべき技術とやさしさ - bar_compass

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バーへようこそ#9 東京・渋谷 BAR Legacy 次世代へ受け継ぐべき技術とやさしさ

こんにちは!BAR compass編集部の河合です。
第9弾はとうとう渋谷に上陸!渋谷初の取材は「BAR Legacy」(バーレガシー)さんへ。

今回は、銀座の名店 「BARオーパ」、そしてこちらも渋谷の名店「Bar 石の華」の2店舗で腕を磨いたBAR Legacyのオーナーバーテンダーである吉川 厚史(よしかわ あつし)さん(以下、吉川さん)にお話をお伺いしました。

吉川さんがバーテンダーを志したきっかけや名店での修業の日々、BAR Legacyのこだわりに至るまでたくさんのお話をお聞きしました。
まずはBAR Legacyのおすすめカクテルからお楽しみいただければと思います!

BAR Legacyのおすすめカクテル

海外からのお客様も多くいらっしゃっるBAR Legacy。
海外のお客様に人気のカクテルがこの「ジャパニーズネグローニ」だ。
吉川さんは、近年世界で最も飲まれているカクテルにも選ばれたクラシックカクテル、ネグローニを和風にアレンジした。

通常のネグローニではジンをベースとしてるが、吉川さんがベースとしているのウォッカだ。しかもただのウォッカではない。予めウォッカに焙じ茶をインフュージョン(漬け込む、溶け込ませる)したウォッカをベースとしている。また、カンパリも通常のものではなく、バレルエイジタイプのものを用いてより深みを出しているのがこのジャパニーズネグローニだ。

ジャパニーズネグローニのレシピ
〇焙じ茶インフューズウォッカ 30ml
〇バレルエイジカンパリ 15ml
〇スイートベルモット 15ml
ミキシンググラスにこの3つを加えステア(かき混ぜる)。

吉川さんは、液面を「しゃくる」独特のステアで液体をなじませていく。このステアでお酒の̚カドをとり、丸みのあるカクテルを作り出すのが吉川さん流だ。

ゆっくりとグラスに注がれていく

焙じ茶が加わっているウォッカがベースとなっているため、口当たりがよくカクテルを飲み慣れていない方でもとっつきやすい。そしてこれもまた吉川さんのステア技術あってこその一杯。クラシックカクテルであるネグローニをまた違った形で楽しむことができるジャパニーズネグローニは、一度は飲むべき逸品だ。

バーテンダーを志したきっかけ

「横浜のあるバーがきっかけでした。」

もともとは調理専門学校卒業後にフランス料理店で働いていた吉川さんはある日、横浜のあるバーに友人とともに訪れた。

「そのバーに行った時の感動が今も忘れられません。バーテンダーの方が作ってくれるドリンクがおいしいことはもちろん接客がとても素敵で印象的でした。」

ここから吉川さんのバーテンダーとしての道のりが始まる。
当時渋谷にあったバーテンダースクールに入り、バーテンダーとしての基礎を学ぶ。そして、いざ就職となったタイミングで、当時の日本バーテンダー協会の渋谷支部長を務めていたバーテンダーに挨拶に行ったという。

挨拶に行った時に、
「支部長さんから『銀座にBARオーパというバーがスタッフを募集しているので面接に行ってみるといい』とご紹介を受けたことがきっかけでBARオーパの面接に行くことにしました。」

バー好きであれば一度は名前を聞いたことがあるであろうレジェンドバーテンダーのひとり、故・大槻 健二(おおつき けんじ)さん(以下、大槻さん)が開業した銀座のBARオーパ。何人もの有名バーテンダーを輩出した名門だ。
当時オーナーバーテンダーを務めていた大槻さんに面接をしていただいた吉川さん。
「面接では聞かれたことに対していまいちうまく答えることができず、今でも恥ずかしいくらい敬語を使えなかったと思います。」
吉川さんは当時をこう振り返るが、見事合格をいただくことができた。

「なんで自分が受かったんだろう…とも思いましたが、これもなにかのご縁なのかなと感じました。」

銀座 BARオーパでの修業の日々

BARオーパに勤めた7年間はまさに「青春」で、とても色濃い毎日だったと吉川さんは語ってくれた。

バーテンダーとして、大切なことをたくさん学ぶことができたのもBARオーパのおかげであったという。
「先輩方にはバーテンダーとしての技術やサービス、カクテルコンペティションについてはもちろんのこと、日々の掃除を大切であると教えていただきました。
暑い夏の日には先輩たちと上半身裸になりながら必死に掃除をするんですよ。そんなタイミングに限って、女性のお客様がショップカードをもらいにお店に来たりもしました笑」
今でも吉川さんは掃除を怠らない。「特にトイレは美しく保つようにしている」と笑顔で話をしてくれた。

そんな吉川さんにBARオーパ時代に一番印象に残ったエピソードを尋ねたところ、「大槻さんの接客スタンス」だという。

「大槻さんはとにかく腰が低くお客様を必ず笑顔にさせる接客をする方でした。それは相手が社長さんだから腰を低くするとかではないんです。一見さんで若い方がいらっしゃったとしても常に低姿勢で、すばらしい接客をする方でした。それに大槻さんのトーク技術も本当に勉強になりました。私もカウンターの端っこでよくメモを取っていました笑」

誰であろうがスタンスを変えない。それがサービスの根幹ではないか、と吉川さんは当時を振り返りながら語る。


思い出のテキーラギムレット

カクテルメイクの面でも吉川さんはBARオーパ、大槻さんの影響を色濃く受けている。
今回は大槻さんがお客様へ名刺代わりの一杯として提供していた「テキーラギムレット」を披露してくださった。

大槻さん流のテキーラギムレットは、テキーラが48ml入るものだった。
そして、必ずベースのテキーラはエラドゥーラ プラタ だったという。

正直、48mlのテキーラが入ると聞くと、いくらお酒を飲み慣れている人でもビビってしまうだろう。日本ではウイスキーワンショットといえば、30mlを指すことが多いが、約50mlのテキーラを入れてカクテルを構築するわけなので、本当にこんな強いカクテル飲めるのだろうか…と不安になってしまう人がいても無理もない。

吉川さんも大槻さんの遺志を継ぎ、ベースのテキーラはエラドゥーラ プラタ。吉川さんはここにライム12ml、シロップを2tsp入れてこのカクテルを構成する。
「私もいろいろ研究しながら今の味にたどり着きました。」

吉川流のテキーラギムレット

いざ、テキーラギムレットをいただいてみると、本当に優しい口当たりで、丸みのあるとても素敵なカクテルに仕上がっていた。
「ガツンとアルコールを感じることのできるカクテルだってそれはそれでありだと思うんです。でも個人的には最初はアルコールを感じず、すっと喉を通って、その余韻が奥からこみ上げてくるようなカクテルを目指したいなと思っています。」

大槻さんのテキーラギムレットは、ベースはしっかり入っているが柔らかく丸みがあり、ボリューム感のある味わいだった。とてもテキーラが48mlが入っているとは思えないくらいのカクテルであったという。でも、いくら同じように吉川さんが作っても、「まったく同じようには作れない。でもそれがカクテルの面白いところですね。」と笑いながら吉川さんは語ってくれた。

吉川さんはBARオーパ時代をこう振り返る。
「大槻さんはじめ先輩方には本当に数えきれないほどのご指導をいただき、皆さんは厳しさもあり愛もありました。先輩方に営業終了後(早朝5時以降)にいろいろなところに連れて行っていただき、正午くらいまでバーやカクテルについて様々なことを教えていただきました。令和の時代では話せないエピソードもたくさんあります笑
でもとにかくあっという間の7年間だったんです。私にとって大きな財産ですね。」

そして、吉川さんは活躍の場を銀座から渋谷へと場を移すのだ。


渋谷 Bar石の華での経験

吉川さんは7年在籍したBARオーパからこちらも渋谷の名店、石垣 忍(いしがき しのぶ)(以下、石垣さん)マスターが営むBar石の華に移籍することとなった。
吉川さんの移籍にあたっては、大槻さんと石垣さんとのつながりが関係していたという。大槻さんはバーテンダーとしてのキャリアのスタートが渋谷であったため、当時日本バーテンダー協会の渋谷支部に所属していた。そして、石垣さんも大槻さんと同じく渋谷支部に属しており、2人は強い結びつきがあった。

「ちょうど石垣さんがBar石の華をオープンするタイミングで私に声をかけてくださり、一度大槻さんも含めて3人で居酒屋で飲むことになりました。そこで改めて大槻さんに石垣さんのもとで働きたいことを伝えた時には、『やるなら最低でも5年以上だ、しっかりやってこい!』と背中を押してくださいました。」

ここから11年間、吉川さんは石垣さんのもとで「二番手」を務めあげた。また、カクテルコンペティションやもともと好きだった料理にも挑戦させてもらえたという。

銀座と渋谷。
イメージ的には客層も大きく変わるのではないかと思ってしまうが、「お客様のお酒への向き合い方はほとんどギャップを感じなかった」と吉川さんは語る。
吉川さんは何よりも石垣さんのバーテンダーという職業への向き合い方に影響を受けた。

「石垣さんはどこまでもストイックな方です。そしてカクテルやお客様への接客に対しても常にいろんな考えを巡らせている。そんな石垣さんからいただいた言葉で一番印象に残っているのは、『素材のせいにするな』というものです。」

いいお酒を使わなければおいしいカクテルを作れないというレベルではいけない。たとえ安価なお酒やクセのあるお酒を使っても、ハイレベルなカクテルを作ることができる石垣さんの技術に吉川さんは衝撃を受けた。

「自分の技術が足りないことを素材のせいにしていけない」。

こういった部分にも石垣さんのカクテルへのストイックさが垣間見える。大槻さんとはまた違ったアプローチでカクテルメイクに挑戦し続ける石垣さんを11年間間近で見続けた吉川さん。「大きく成長することができた11年間」となった。


「本当に大槻さんと石垣さんに出会えたことに感謝しています。お二人がいなければ今の私はありません。」
万感の思いを胸に、Bar石の華と同じく渋谷で吉川さんはとうとう自分の城を構えることになる。

BAR Legacyに込めた思い

まずはBAR Legacyという店名に込めた思いを吉川さんにお聞きした。
「本当に人ってひとりじゃできないことばかりであることを修業時代に痛感しました。だからこそ、大槻さん、石垣さんはじめこれまでお世話になった皆さんに教えていただいたモノを受け継いでいきたい、そういった思いをLegacyに込めました。」

Legacyには「遺産」や「伝統」などの意味があり、これらの意味が転じて「次世代に受け継がれていくもの」を指す。これまで多くの経験を積んできた吉川さんが名付けるにふさわしい店名と言えるだろう。

店内のデザインに関しても吉川さんがほとんど自分で考えたという。吉川さんがこだわったのは、「360度どこを見渡しても非日常」であること。


カウンターの材木は、今ではワシントン条約で伐採禁止となってしまったカメルーン産の材木、ブビンガ。大小の丸い玉がちりばめられているような木目が特徴である「玉杢」が入っており、自然の美を感じられる品のあるカウンターは一度見る価値のあるすばらしい仕上がりとなっている。

また、椅子の高さにもこだわり、椅子に座ったお客様にバックバー下のグラス棚がきれいに見えることを意識した。また、BAR Legacyのカウンターの目玉ともいうべき美しいお花。こちらも週1回プロの方に生けていただいているものである。そして、小さな装飾にも手を抜かない。

極上の空間づくりの背景には吉川さんのこういったこだわりがあった。
「私はけっこう細かいんですよ。典型的なA型です笑」と笑いながら吉川さんは語ってくれた。

「主役はお客様」

「カウンターの中では平常心であること。」
これが吉川さんが日頃から意識していることだ。

「オーパ時代にちょっと気が抜けていたというか、気持ちが乱れた状態でカウンターに立ってしまったことがありました。これに気づいた大槻さんに後から注意を受けたことをよく覚えています。我々はプロなので、カウンターの中では平常心でいなければいけない。そうしないとお客様に不安を与えてしまうと思います。」

そして、バーテンダーは主役であるお客様を楽しませるための黒子であり続けるように吉川さんはしているという。

「カウンターの中のバーテンダーが目立つ瞬間も確かにあります。でもやっぱり主役はお客様なんですよね。私はオーセンティックバーはそうあるべきだと思っています。
主役のお客様に楽しんでいただくためには日頃からの自分を磨くことが必要だと思っています。カウンターに立っている時だけではなく、プライベートでも自分を磨き続けないと表面的な接客になりがちです。真にお客様に寄り添った接客をするためにはこういった日々の鍛錬が必要だと私は感じています。」

吉川さんの柔らかく一人一人のお客様に寄り添う接客はこのような心構えあってこそ。BAR Legacyをただお酒を楽しむ場としてだけでなく、「やすらぎの空間」へと昇華していると言っても過言ではないだろう。

若い方にも手は抜かない

今回吉川さんに20代の方やバーに慣れていない方にバーを楽しんでいただくために心がけていることをお聞きした。

「コロナ禍を経て、皆さんのお酒の飲み方も変わったと思いますし、実際若いお客様も増えています。そういった状況で意識しているのは、若いお客様とも同じ目線で接客を行うということです。かといって特別扱いをするわけでもない。そういったバランスが重要かなと思います。」

ここで若いお客様にも好評のカクテルである「レアチーズマティーニ」を作ってくださった。
実際に完成するまでかなりの時間を要した力作。

レアチーズマティーニのレシピ
◯ドライジン20㎖
◯クリームチーズ30g
◯豆乳60㎖
◯ヘーゼルナッツシロップ15㎖
◯フレッシュレモンジュース10㎖
これらをミキサーにかける。

いただいてみると本当にレアチーズケーキを食べているかのような錯覚に陥る。液面に添えられている細かく砕かれたクッキーがさらにレアチーズケーキ感を強く感じさせるためのアクセントとなっている。
カクテルでここまでレアチーズケーキを再現できる吉川さんの腕に感服…
レアチーズケーキだけでなく、ピスタチオや吉川さんがお好きな小豆を用いたカクテルなどスタンダードカクテル以外のカクテルの考案にも力を入れている。


また、吉川さんは、「バーは大人の社交場」であると考えている。バーに慣れていない最初の段階で、緊張している方も多いものの、周りのお客様の振る舞いを見て学んでいくこともあるのではないかと吉川さんは語ってくれた。

「以前、よく来てくださる常連のお客様が帰られた後で、『あのお客さんかっこいいですね!』と若いお客様がおっしゃっていました。やっぱり周りの方の振る舞いでかっこいいと思えるポイントを見つけると、『次に自分もやってみよう』となることも多いのではないかと思います。これもバーの面白いところですよね。」

周りのお客様からも影響を受けながら成長していく。他の飲食店とも違う「大人の社交場」として顔を持つバーの醍醐味と言えるだろう。

吉川さんの今後

「根本は大切に。でもひねりを入れていきたいですね。」

先ほどご紹介したレアチーズマティーニは、バーに慣れていない方のみならず、かなりカクテルを飲み慣れている方にも好評のカクテルであるという。

「スタンダードカクテルの探求は今後も続けていきたいと思いますが、やはりカクテルにもひねりを入れていったほうが面白いと思っています。よりお客様に楽しんでいただける空間を作り出すために今後もいろんなことに挑戦していきたいです。」

渋谷の街で吉川さんはさらに輝きを増していく。極上の空間がどのように進化していくのか。ひとりの飲み手として楽しみでならない。

編集後記

初の渋谷のバーの取材。本当にBAR Legacy、そして吉川さんを取り上げることができてよかったなというのが一番の感想です。

「河合さん、こうしたほうがきれいに写真撮れますかね?」などと取材中も私のことを気遣ってくださる吉川さんの優しいお人柄は営業中と変わらず素敵でした。
そして、大槻さんや石垣さんとの思い出を振り返りながら語る吉川さんの表情もとても印象的で、今は亡き大槻さんとの思い出を語る姿には胸を打たれました。

Instagramでも何度もご紹介させていただいていますが、私にとってBAR Legacyは癒しの空間。東京のオアシスのような存在です。空間がすばらしいことはもちろん、この空間を作り出した吉川さんの優しい接客にいつも元気をいただきます。
吉川さんのお人柄が今回の記事を通して少しでも伝わればいいなと思っています。

末筆ながらお忙しい開店前の時間帯に快く取材を引き受けてくださった吉川さんに心より深く御礼申し上げます。

(記事 河合 佳祐)

〇BAR Legacyの詳細
・住所   

 東京都渋谷区渋谷3-22-11
 サンクスプライムビルB1-B
・営業時間

 火~土 18:00~25:00
 日曜  18:00~24:00 
・定休日  

 月曜日、祝日
・アクセス 

 JR渋谷駅新南口より徒歩1分
 東京メトロ銀座線渋谷駅より徒歩5分

 東急各線、東京メトロ半蔵門線渋谷駅より徒歩8分
・ホームページ

 https://bar-legacy.com/

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