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バーへようこそ#2-1 東京・銀座 BAR GOYA 日本一のバーテンダーが語るバーの世界

こんにちは!Bar compass編集部の河合です。

第1弾のバーたか坂さんに引き続き、今回も東京・銀座の「BAR GOYA」さんのマスター、山﨑 剛さん(以下、山﨑さん)にお話を伺いました。

今回、山﨑さんにはバーテンダーを志した経緯から「BAR GOYA」さんのこだわり、地元高知県への思いや山﨑さんが運営するYouTubeチャンネル「GOYAチャンネル」についてなど多岐に渡ってお話を伺いました。前編、後編に分けて記事を書いていきたく思いますので、お楽しみいただけますと幸いです。


まずは読者の皆様には、山﨑さんのおすすめカクテルをご覧いただき、次にこのカクテルを作る山﨑さんのバックグラウンドを知っていただけるとうれしいです!

山﨑さん(BAR GOYA)のおすすめカクテル

山﨑さん(BAR GOYA)おすすめのカクテルとして、今回作っていただいたカクテルはラム酒にライムジュースや砂糖を合わせて作るスタンダードカクテル「ダイキリ」
キューバのダイキリ鉱山に技師として派遣されたアメリカ人の方が現地の労働者にふるまったカクテルとして知られている。「ダイキリ」というカクテル名は、この鉱山の名前からいただいているもの。

山﨑さんは2種類のラムを使ってこのカクテルを作る。ひとつはスタンダードなラム。もうひとつはプレミアムラム。このプレミアムラムを加えることで、深みのある味わいを演出する。
せっかくですので試飲させていただきましたが、私も1口目で「ううう…」と思わず唸ってしまった。まろやかでありながらもラムのうまみのようなものを楽しむことができる本当に完成度の高い「ダイキリ」。早速しびれてしまう…

山﨑さんが以下の動画内で各材料の分量を解説してくださっている。とても美しいシェイクも見どころのひとつ。

仕上げにはライムピールをツイストする

バーテンダーという職を極める

こんなすばらしいカクテルを作る山﨑さん。しかし、ここまで技を極めるまでには様々な苦労があった。
高知でのバーテンダー人生の始まりから銀座の名門バー「スタア・バー・ギンザ」での修業時代などについて詳しくお話をお聞きした。

バーテンダーを志したきっかけ

山﨑さんがバーテンダーを志したきっかけは意外なものだった。

「高校の同級生が大学に行きながらバーテンダーのアルバイトをしていたんですが、一級建築士の資格を取りたいから勉強しなくちゃいけないということで、アルバイトを辞めるために代わりを探していたんですよ。そこに入ったのが僕という感じです(笑)

こんな偶然から始まった地元・高知でのバーテンダー人生だが、「もう少し広い世界を見たい」と思い、東京に行くことを決める。当時は山崎さんの師匠にあたる「スタア・バー・ギンザ」のオーナーバーテンダーである岸 久さん(以下、岸さん)やこちらも銀座の名門「BARオーパ」の大槻 健二さんらが大活躍をしていた時代。そういった「一流の人たちの技術を垣間見たい」という思いがあったことが上京につながった。

そこで現在でも高知で人気のイタリアンバールのシェフが岸さんへの紹介状を書いてくださった。このシェフは以前バーテンダーとして全国大会に出場をしていた方でもあったため、岸さんとのつながりがあったそう。これが「銀座」という地へ山﨑さんをいざなう。

しかし、紹介状を持って「スタア・バー・ギンザ」の門を叩き、いざ面接を受けたものの、「今は空席がない」ということで、このタイミングでは 「スタア・バー・ギンザ」 に勤めることができなかった。


そこで山﨑さんはまずはダイニングバーのはしりとも言われる新宿の「サントリーラウンジ昴」(現在は閉店)に勤務することに。系列店である「サントリーラウンジ飛鳥」(現在は閉店)や「サントリーラウンジイーグル」(こちらは現在も新宿アルタ裏で営業しております!)を巡りながら、バーテンダーとしての腕を磨いていくことになった。

そして、2年ほどの新宿勤務ののち、山﨑さんに転機が訪れる。
「母親が病気をしたことがきっかけで、高知に帰ることになったことを岸さんにも連絡したんですよね。
そうしたら高知に帰った後、しばらくしてから岸さんから連絡があったんです。『その後は状況どうでしょうか?最近空きができて人が入る予定がないから、おふくろさんが落ち着いたらまたいつでも連絡してきていいよ』って。
 そこで母親に相談をしたらそんなチャンスはなかなかないから東京に行きなさいと言われて、再び上京し『スタア・バー・ギンザ』に入ったんです」

新宿でバーテンダーとして働いている間にも「スタア・バー・ギンザ」にたまたま顔を出す機会に恵まれたり、カクテルコンペの観戦に行った際には、岸さんと偶然遭遇をしたり…
その都度必ずご挨拶をするようにしていた山﨑さん。

「面接でだめになったとしても、岸さんとのご縁を大事にするようにしていました」

こういったエピソードからも山﨑さんのまっすぐな一面が垣間見えた。

「スタア・バー・ギンザ」での修業の日々

「スタア・バー・ギンザ」に入店後、山﨑さんに待ち受けていたのは厳しい修行の日々だった。
その中でも印象に残っているエピソードを伺ってみると、入店直後のエピソードを語ってくれた。

「当時岸さんの右腕だった上野 秀嗣さん(現在BAR HIGH FIVEの店主)の隣でギムレットを作ったんですよ。レシピを口に出しながら作れ、と言われたので、新宿で作っていた時と同じレシピで、材料を入れる度に口に出していきました。すると、上野さんも私とまったく同じ材料、分量でギムレットを作っていたんです。こうして出来上がったカクテルの液体の色、香りの立ち方がまったく違ったんですよね。もちろん飲んでみたら味も全然違いました

「これだけ技術のレベル差があるということを知ることから始まった」と当時のことを振り返ってくれた山﨑さん。この時まではレシピ通りにカクテルを作ればそれなりものができると思っていたが、それが間違っていたこともこの時に身に染みて感じた。
「とにかくやるしかない」。強く決意した瞬間だった。


しかし、カクテルを作る練習などもすぐにトライできたわけではない。まずは日々の業務をマスターすることからだった。山﨑さんは当時「スタア・バー・ギンザ」の先輩方から言われていた言葉を教えてくださった。
「お客様との会話のキャッチボールや気配り、目配り、丁寧かつ本質的な仕事ができれば、技術というものは勝手に後から身につくもの」

山﨑さんは語る。
仕事が雑な人は、雑なカクテルしか作れない。本当に今必要なことは何か、意味のある仕事ができるようにならないといけない。カクテル作りにもこの本質を見極める力が必要なんです。こういったところはかなりしっかりとご指導いただきました」

名門バーがいかに人を育てることを大切にしているかがわかるエピソードでもある。


こうした日頃の業務を含め、カクテル作りがある程度できるようになってきたな、と山﨑さんが感じたのは5年後のことだった。
「3年経てばなんとなくできた気になってしまうんですよね。3年目になると、そこそこ仕事も任せられるし、ある程度のことはできるようになります。でもここでもうひと踏ん張りしなければならない出来事が起きるんですよ。それをどう乗り越えるかなんですよね」

この5年の間には、もちろん各々が持つセンスも成長度合いに影響を及ぼす。しかし、それ以上に影響を及ぼすのは、「心の在り方」だという。
「やっぱりズルをしたりごまかそうとする人はいけない。言われたことはしっかり改善する、褒められたら素直に喜ぶと言ったような素直さや正直さがすごく大切です。素直さや正直さがないとどうしても伸び悩んでしまうような気がしますね

この心の在り方は、バーテンダーだけではなく、どんな仕事にも通ずるものだ。


5年目で「スタア・バー・ギンザ」の店長になった山﨑さんはその後、店舗が増えた「スタア・バー・ギンザ」系列のお店をまとめる統括マネージャとしても活躍した。NHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」に岸さんが出演し、「スタア・バー・ギンザ」が開店から閉店まで3か月間以上満員の状態が続いた時も山﨑さんは「スタア・バー」の看板を若手スタッフとともに支えていた。

「仕事を始めて1年、3年、5年、8年、10年、12年。このあたりがターニングポイントになりやすいと思っています。僕も12年半で独立をしました」

いよいよ山﨑さんがBAR GOYAオープンに向けて準備を始める。


BAR GOYAについて

これまで山﨑さんのバーテンダーになるきっかけや「スタア・バー・ギンザ」での修業時代にスポットを当ててきた。続いては現在山﨑さんが営む「BAR GOYA」についてお話を伺った。

「BAR GOYA」の名前の由来

貴重な 『La Tauromaquia』(タウロマキア)

「きっかけはベネンシアドールというシェリーの資格試験で最優秀賞をとり日本一になったことです。馴染みの古本屋のオーナーがお祝いで『La Tauromaquia(タウロマキア)というゴヤの版画集をプレゼントしてくれました。
 その時、ゴヤの名前くらいは知っていたんですが、もっと詳しく知りたいと思い、本屋に行っていろいろと調べてみました。 『La Tauromaquia』は闘牛を掘った版画の連番なので、よく似た作品ばかりですが、他のゴヤの作品を見るとすごく現代にも通ずるアーティストであることを感じたんです」

ゴヤとの出会いを楽しそうに話してくれる山﨑さんがすごく印象的だった。
さらにゴヤのどのような部分に惹かれたのかを詳しく語ってくださった。

「ゴヤは叩き上げで宮廷画家になったんですが、そこで彼は世に出ていない宮廷の内情を知ることになります。ゴヤは宮廷で自らが感じた人間の悪意であるとか羨望などを巧みに絵の中に落とし込んだんです。晩年には『黒い絵』や戦争の絵も描いており、世の中に対する自分の思いを率直に発信し続ける姿がいいなと思いました」

しかし、「BAR GOYA」の由来は画家のゴヤだけではなかった。そこには山﨑さんのもうひとつのこだわりがあった。

「この店のテーマは『アットホーム』なんです。バーはそのマスターの家のようなイメージが僕にはあるので、『お邪魔します』的な感じでお店に来ていただいて、その場でほっとくつろぐというのがいいなと思っています。
 そして僕の名前が『剛』なので、剛の家を音読みすると『ゴウヤ(ゴヤ)』になるんですよ(笑)これとも掛け合わせてBAR GOYAにしたんです」

ほっとくつろぐ場所でありながらも、家の中にはルールがあり、それを守らなければならないというある種の厳しさもある。「BAR GOYA」をそういったアットホームな場にしたいという山﨑さんの強い思いが感じられた。

取材日(1月19日)には19番目の版画が飾られていた。山﨑さんは毎日版画を交換している。


立地についても「銀座でやる以外の選択肢はなかった」と山﨑さんは断言した。
12年半、岸さんの元で修業をしたという意味でも銀座に出店する意義を感じていたという。


お店を作るうえでのこだわりとしては、「自分の目が行き届く範囲の広さにする」ということだった。
「自分の目でしっかり店内の状況やお客様の表情、気持ちを確認したいという思いがあります。お店が大きすぎると目が行き届かないことがあったり、それなりのサービスしかできなくなってしまいます。僕はそれが嫌ですね」


「スタア・バー・ギンザ」がカウンター10席、テーブル15席でマックス25名のお客様が入ることができる空間だった。この大きさになると、誰かの手を借りないとすべてを見ることはできない。そこで、10坪の物件を借りて自分の目が行き届く範囲で営業をすることを目指した。


地元高知に対する思い

限界集落の語源となった高知県大豊町産のショウガ


地方出身者であれば、感じる方は多いのではないだろうか。
「東京に出たからこそ気づいたふるさとの魅力」

山﨑さんも高知から上京することでふるさとの魅力を再認識した一人だった。

「僕が使っている『限界突破ショウガ』だって地元の人のほうが知らないんですよ!実は自分も知りませんでした(笑)ということもあり、僕がここで高知の魅力を伝える意義があると思うんです。地元の方は地元のものをそんなに食べないので、高知のお客様がこちらに来て、僕のカクテルを飲んで高知のものってこんなにおいしいんだ!ってことに気づくなんてこともよくあるんですよ。
 僕自身があまり高知の魅力を知らなかったからこそ、高知のおいしい食材などを取り入れて発信するという取り組みができればいいなと思いながらやっています

山﨑さんは高知県の観光特使を務めており、地元の農家さんを訪ねることなどもあるという。


数ある高知の食材の中でも、特に「BAR GOYA」の目玉になるフルーツとして語ってくれたのは、秋口から12月に出荷される「水晶文旦」と初夏に出荷される「小夏」だ。

高知の農家さんって柑橘系の果物を作るの上手なんですよ。これからの季節(1月あたり)は金柑が来るんですが、他の地域に比べても高知の出荷は遅いんです。それは水分を極力与えずに、金柑本来の味を引き出しているからなんですよね。結果的にすごく味の濃いフルーツを仕入れることができるのでカクテルも作りやすいんですよ」

文旦農家や小夏農家には修業時代に、ショウガ農家には独立してから訪れている。今後もこうした現場を見るということは大切にしたい、と山﨑さんは語る。

また高知のおもしろいところとして、地域ごとにブランドを持っているのではなく、生産者ごとにブランドを持っているということだ。そのため、その生産者が亡くなってしまうとそのブランドもなくなることになる。
夏が旬の「土佐パイン」もそのひとつだ。生産者は一人しかいないため、ひとつ約5000円と高値で取引がされている。幻のブランドというわけだ。

山﨑さんは笑いながら語る。
「高知はこだわりの強い方々が多いんですよ」


前編のむすび

前編は、山﨑さんのバーテンダーとしての経歴や「BAR GOYA」のこだわり、高知県に対する山﨑さんの思いを中心にまとめてみました。

いかにバーテンダーとして働くことが大変なのか、カクテル作りが奥深いのかを山﨑さんのお話から強く感じることができました。また恥ずかしながら高知県にはまだ足を踏み入れていない私…。本当にたくさんの魅力がある地域であることを山﨑さんの軽快なトークで知ることができ貴重な機会になりました。

後編も、山﨑さんのバー初心者や若い世代のお客様に対しての思い、バー営業の傍ら山﨑さんが営業する築地のジュース屋について、YouTubeの「GOYAチャンネル」についてなどコンテンツ盛りだくさんでお送りいたします。

後編もお楽しみに!

(記事 河合 佳祐)

〇BAR GOYAの詳細
・住所   

 東京都中央区銀座6丁目4-16 花椿ビル2階B2号(小路)
・営業時間 16:00〜23:00 
※グループでの御来店は5名様迄とさせていただきます。
・定休日  

木曜・日曜定休(その他臨時休業有り)
・アクセス 

東京メトロ銀座線、丸ノ内線、日比谷線
C3出口より徒歩3分
JR有楽町駅、JR新橋駅銀座口より徒歩8分
・公式HP 

https://bargoya-ginza.com/

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